校長室から

第1学期終業式(放送による講話)

【校長講話】

 5月に緊急事態宣言が解除、経済活動が徐々に再開され、ニューノーマルと呼ばれる「新たな日常」が始まりました。マスクの着用、手洗い・手指の消毒、3密を避けること、こうした生活にもようやく慣れてきましたが、2か月遅れてスタートした今学期、いつもと異なる学習環境の中、いつもより遅い1学期の終業を迎え、皆さんは今どんな思いでいるのでしょうか。
 休業中はスタディサプリやオンライン授業等で学校とつながっていたとはいえ、学校再開後の学びのボリュームは削られ、課外活動は制限され、学校行事の中止や土曜考査日の設定など、忙しくもあってなかなか心の隙間が埋まらない日々だったかもしれません。もしかすると、後世の歴史家から「学校教育の転換期」と表現される時代の只中に私たちは立っているのかもしれませんね。そう感じるのは社会全体に大きなパラダイムシフトが起きているからです。今回のコロナ禍で、「働き方」「都市機能」「人々のライフスタイル」が劇的に変わっていくのを感じませんか。皆さんが社会にでるとき、アフターコロナの世の中はどうなっているか気になるところです。

 ところで、今回の新型コロナウイルスの騒ぎで、感染症の予防には手洗いが効果的であるということに改めて気づかされた人も多いのではないでしょうか。医学界では当たり前と考えられているこの常識は、かつては非常識だったという歴史があるのを知っているでしょうか。
 ハンガリーの首都ブダペストには「公衆衛生の父」と称されるセンメルヴェイス・イグナーツという医師の像があります。彼は19世紀半ばの産科医ですが、この時代、女性の出産とはまさに命がけであり、出産直後の感染症で命を落とすことがよくありました。ひどいときには30%近い妊婦が死亡するという状況でした。
 センメルヴェイスは自分が勤務する病院の第一産科と第二産科で出産した女性たちの死亡率に違いがあることに注目しました。男性の医師が働く第一産科は死亡率が高いのに対し、女性の助産師が働く第二産科は死亡率が低かったのです。当時ヨーロッパでは、医師は男性ばかりで、汚れが目立たないようにと、白衣ではなく、黒い服を着ていました。そして、高尚な仕事に携わる医師の手は汚れているはずはないと考えられていたため、患者を診察する前に手洗いをするという習慣もありませんでした。無理もありません。このころは「近代細菌学の開祖」とされるパスツールやコッホの細菌論が確立される前であり、病の原因に瘴気や霊気といった非科学的なものが強く関係していると信じられていたからです。センメルヴェイスが指摘したことは、言うまでもなく、医師が感染源となっているという衝撃の事実でした。
 センメルヴェイスは診療従事者たちに次亜塩素酸カルシウムで手洗いをさせることに取り組みます。その結果、感染症での死亡率を1%未満にまで下げることに成功しました。彼の主張は、エビデンスを数多く示し、手洗い法の有効性を実証するものでしたが、医師が感染源となり得ることを前提とするこの考え方は、当時の医学界には受け入れ難く、周りの医師たちは彼の研究に嫌悪感を示し、彼のことを「石鹸屋の回し者」と吹聴する者さえ現れました。やがて彼は医師の職を奪われ、失意のうちに精神療養所に幽閉されると、衛兵からの暴行を受け、その傷がもとで死してしまいました。46歳の若さでした。
 
 今般の新型コロナウイルスでは「正しく恐れる」という言葉が生まれました。私たちが生きるこの世界には自分の目には映らないがために、恐ろしいと感じるものがいくつもあります。細菌やウイルス、PM2.5、放射性微粒子といった極小の脅威から、同調圧力、誹謗中傷、根拠なきレッテルなど実体のないものまで、これらに対する恐怖心こそが人を傷つけ、誰かを攻撃をする原動力なのかもしれません。正体がわからないもの、これまでの常識が通用しないものを怖く感じるのが人間の性であり、こうした人間らしさが殺人や略奪、戦争などといった過ちを繰り返してきたのかもしれません。先に紹介したセンメルヴェイスの悲劇は、通説にそぐわない新事実を拒絶する傾向、常識から説明できない事実を受け入れがたい傾向のことを指す「センメルヴェイス反射」という言葉を生み出しました。21世紀に生きる私たちは、過去から学び、二度と同じ過ちを繰り返してはならないのです。こんな時代だからこそ、視野を広げ、考え方を柔軟して、世界中の人々と連帯して、この難局を乗り切りたいものです。

 短い夏休みですが、この2か月で失ったものを取り返すつもりで様々なことにチャレンジしてみてください。3年生は進路活動の正念場です。2年生はその進路決定まで残り1年となりました。1年生は入学したばかりと思っているとあっという間に時が流れます。夢、志、それぞれの目標に対する現在の自分の状況を客観的に捉え、そのギャップをどう埋めていくか、そのためにどんなアプローチが必要か。これを実行することがマネジメントです。目標到達のための戦略や戦術をしっかり練って、有意義な夏としてください。
 最後に、これが一番大事なことですが、新学期8月25日には、いずみ高生が全員元気に再会できるようにしましょう。約束です。

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