校長室から

2019年3月の記事一覧

平成30年度修了式

 春本番の今日、第3学期の終業式、すなわち平成30年度の修了式を行いました。卒業生がいなくなり、いつも2/3の全校生徒たちでしたが、予定時刻より約8分早く集まり、しっかり整列てきたので、前倒しで修了式を行うことができました。
 今年度を振り返り、来年度向けた課題をしっかり意識して、4月からのそれぞれの新たな1年間の取組に生かしてほしいと思います。

  

【修了式・校長講話】

 皆さん、おはようございます。
 今日で、3学期も終了します。 そして、それぞれの学年の修了を迎えました。
   皆さんは4月にはいずみ高校を支える新3年、新2年へとそれぞれ進級します。ここまで、皆さん自身の努力はもちろんですが、それを支えてくれた先生方のご指導と、何よりおうちの方への感謝の気持ちを大切にすることが、皆さんを心優しい人間へと高めてくれると思っています。

 今日は「親子の絆」についてお話します。

 これは私の友人とそのお母さんの話です。 彼は幼いころに父親を亡くし、彼のお母さんは女手一つで彼を育ててくれました。 昭和の時代、田舎では就業の機会もなかなかなくて、近所の商店の手伝いのような仕事で何とか生計を立てていたようです。このころは日本全体がまだまだ貧しく、物質的な豊かさを享受している人たちが増えてくる一方で、苦しい生活を余儀なくされている家庭も多かったように記憶しています。
 彼の家庭は当時としても苦しい生活環境にありました。近所の友だちが映画やボーリングに行くなんていうときも、その誘いには乗らず、お母さん手作りの弁当をもって、近所の河原に遊びに行っていました。また、中学進学のお祝いだといって、変速ギア付きのカッコイイ自転車を買ってもらう子どもが多いなか、彼だけがお母さんと共用している婦人用自転車を大切に乗っていました。
 お弁当と言えば、学校で運動会が雨で中止になったとき、教室で、いつもの給食ではなく、それぞれが持参したお弁当を食べる機会がありました。そのとき、彼は「俺はもう、腹が減って腹が減って」と笑いながら、お弁当箱を抱えるようにガツガツ食べていましたが、お弁当の中身を見られたくないということは、すぐに見て取れました。子どもながらに、見てはいけないものを見てしまったような、ばつの悪さを感じたことを覚えています。
 そんな彼の家で、ある時ちょっとした事件が起こりました。
 お母さんが仕事先でプロ野球のチケットを二枚もらってきたのです。彼は生まれて初めてのプロ野球観戦に興奮し、お母さんはいつもより少しだけ豪華なお弁当を作ってくれました。 二人は意気揚々と野球場に向かいました。当時のジャイアンツのフランチャイズ球場は「後楽園球場」、現在の東京ドームの前身です。ところが、水道橋の駅で降りて、チケットを見せて入場しようとすると係員に止められてしました。彼のお母さんがもらったのは招待券ではなく優待券だったのです。チケット売り場で一人千円ずつ払ってチケットを買わなければいけないと言われ、帰りの電車賃くらいしかもっていなかった親子は、球場の外のベンチでただお弁当を食べて帰ることになりました。
 帰りの電車の中で無言のお母さんに、彼は精一杯気を利かせて、「でも東京に来れたんだし、後楽園球場が見れたし、俺はすごく楽しかったよ。」と言ったのですが、その言葉を聞いたお母さんは「母ちゃん、馬鹿でごめんね。」と泣き崩れてしまったそうです。
 彼は自分と自分の母親に辛い思いさせた貧乏が心底嫌になって、このことをばねに、一生懸命に勉強して、新聞奨学生として大学、大学院へと進学し、大手家電メーカーの技術職に就きました。

 そんな彼と久しぶりに正月明けに会って、二人で酒を酌み交わしていた時、ふとしたことから、彼のお母さんの話になりました。 彼は「お袋にはいろいろ苦労させたけど、結婚して、孫を見せてやることもできて、親孝行ができてよかった」としみじみ語っていました。 そして意外なことを口にしたのです。 「そういえば今年、お前に年賀状出さなかったよなあ。あれ、お前に言ってなかったけど、うちのお袋がさぁ、去年の暮れに死んだんだ。 脳梗塞でさぁ、倒れてからずっと寝たりきりだったんだけど、死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したようになんか呟いたんだよね。 俺のほかは誰も聞き取れなかったみたいなんだけど、確かにこう言ったんだよ、お袋。『野球、ごめんね』って。」
 私はなんて声をかけてあげればいいのかもわからず、しばらく黙っていました。目を真っ赤にした友の顔には、いつの間にか皺が刻まれて、彼のお母さんによく似た優しい瞳がありました。

 命がけで皆さんを産み、そして一生懸命育ててくれている親というのは何にもまして有難い存在です。 親と子の絆は、本来、無償の愛でつながっているものです。 最近は、虐待など、心痛むニュースが報じられていますが、本来はこの世でもっとも深くて強い結びつきがあるものです。皆さんも、おうちの方の愛を感じ、その愛に感謝するとともに、優しい気持ちを思い出してください。この優しさこそが人間本来のものだと思います。
 今年、何度もお話してきたことですが、相手の立場に立って行動する、思いやりの気持ちで他人と接することができる、そうした心があれば、人間関係はきっとうまくいきます。 おうちの方の愛に感謝しながら、他人を慈しむことができるようになること、この春休みの宿題です。
 そして、 4月8日 には元気に再会しましょう。

 私の話は以上です。
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イノベーション事業(環境建設科・道路ライン引き)のご紹介

 日差しは春らしくなってきましたが、今朝のいずみ高校は冷たい空気に包まれています。そんな中、今日は埼玉県教育委員会の「次代を担う産業人材イノベーション事業」の一環として、ライン企画工業株式会社様(杉本取締役、魚谷本店長をはじめ、多くの社員の皆さん)をお招きして、道路標示、ライン引きの実際を体験する機会を設けました。
 ライン企画工業の皆さんにご指導いただきながら、2年生の環境建設科の生徒たちが、本校職員用の駐車スペースのラインを実際に引き直す実習に取り組みました。

  

 また、駐車スペースをつなぐ一角には、アスファルトの上に本校の校章を大きく描いていただきました。とても素晴らしい出来栄えで、学校職員一同感激しています。

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ブラインドサッカーの体験教室

 今日は日本ブランドサッカー協会D&I事業部の小島雄登さん、埼玉T.wingsの駒崎広幸選手にご来校いただき、ブラインドサッカーについてご紹介していただきました。前半は講義とペアワークにより、見えない世界について学び、後半のブラインドサッカー体験では、音を主体とするコミュニケーションの大切さについて学びました。
 2020年の東京パラリンピックでの日本勢の活躍が期待されます。

  

【校長・講師紹介】

 今日のブラインドサッカー体験で、講師を務めていただきますのは、日本ブランドサッカー協会D&I事業部の 小島雄登さんと、所沢市とさいたま市に本拠地を置く「埼玉 」というチームに所属の 駒崎広幸さんです。
 今ご紹介した小島さんが所属するセクションの名称にもなっていますが、ダイバーシティとインクルージョンという言葉が今社会で注目されているのは知っていますか。ダイバーシティとは多様性という意味で、元は企業などで、社会的マイノリティ(少数派)の就業機会拡大を意図して使われることが多かったものですが、近年は、性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用するという意味で使われることが多くなりました。
 インクルージョンとは、元々は「混ざり合っている」という意味ですが、似た言葉にインクルーシブという言い方があります。よくインクルーシブ教育などという言葉で耳にすることがあると思います。インクルーシブとは、障害の有無にかかわらず、すべての人が活躍できる社会を目指す、すなわち、「共生社会」の実現に向けた行動指針となる言葉です。障害がある、ないにかかわらず、女の人も男の人も、お年寄りも若い人も、すべての人がお互い幸福に暮らしていくための権利や尊厳を大切にし、支え合い、誰もが生き生きとした人生を送ることができる社会、これが「共生社会」です。
 今日はブランドサッカーというスポーツを紹介してもらうわけですが、ここから共生社会に向けた取組を進めるうえで必要となる、障害とは何であるか、私たちはどう関わるべきか、人との違うということは「個性」であって、人間のもつ多様性をどう捉えるか、こうしたことについてよく考えてほしいと思います。「共生社会」は、様々な人々が、すべて分け隔てのなく暮らしていくことのできる社会です。様々な人々の能力が発揮されている活力ある社会を目指していかなければなりません。楽しいスポーツの世界を学ぶとともに、この共生社会についても考える機会としましょう。
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第55回卒業証書授与式

 今年の卒業証書授与式は、春本番を思わせる暖かい日差しの中で行われました。
 今年の卒業生はそれぞれの思いを胸に担任の先生からの呼名に応えていました。生徒たちの笑顔が溢れるよい卒業式となりました。

  

【卒業証書授与式・式辞】

 春風駘蕩たる日和に恵まれた今日の佳き日に、埼玉県警察浦和西警察署長 木村 宏志  様、さいたま市立八王子中学校長 長島 庸夫 様、また、さいたま市立与野西中学校長 中川 昇 次 様をはじめとする学校評議員の皆様、さらには、同窓会・PTA後援会役員といった数多くの御来賓の方々、そして大勢の保護者の皆様の御臨席を賜り、かくも盛大に「第五十五回 埼玉県立いずみ高等学校 卒業証書授与式」を挙行できますことは、本校関係者にとりまして、望外の喜びでございます。厚く御礼申し上げます。

 まずは、ただ今卒業証書を授与された二百十九名の皆さん、卒業おめでとうございます。いずみ高校を代表してお祝いを申し上げます。

 皆さんは、いずみ高校での三年間で、多くの友とともに、様々な経験を通じて自らを成長させてきました。六学科の特色ある学びをとおして、地球環境のよき理解者として、その分野のスペシャリストへと歩みを進め、それに見合うだけの実力を身につけてきました。卒業にあたり、自らの成長とそれぞれの分野における自信「いずみプライド」を、しっかり確認してください。それが、皆さんの今の姿であり、これからの財産になっていくものです。いずみ高校で学んだ皆さんが、社会に出てその成果を発揮し、将来この国や地域に貢献できる人材として活躍されることを心から期待しています。

 平成という時代が間もなく終わろうとしています。この三十年間は世界が国境を越えてつながる「グローバル社会」への変化の時代だったと言えます。そして、インターネットなどの技術的進展により、ソサイエティ五・〇と言われる時代がすぐそこまでやってきています。この時代ではAIが飛躍的に進展すると言われているものの、ただちにAI万能の時代が来るわけではありません。現在のAIテクノロジーは技術的には「統計」を用いているだけであり、サーバ上に蓄積されたデータに基づいて確率の高い答えを出しているに過ぎません。一方、人間は語彙やセンテンスのもつ意味を正しく理解し、その場その場の判断をすることができます。つまり、これからの社会こそ、人間としての強みを生かす時代だと言えるのです。「与えられた仕事をこなす」というのはロボットや人工知能によって代替されるかもしれませんが、「創造的な課題発見・解決力」といった人間だけがもつ力が今日以上に必要になるというわけです。
 いずみ高校での学びは、そうした新しい社会においても、個性と能力を発揮できるものであったと自負していますし、人間としての厚みを増すことができたのではと思っています。

 さて、そのいずみ高校では、今年度は改組二十年という節目の年であり、大きな事業に二つ取り組みました。
 その一つは、昨年八月に実施した「いずみ・グローバル・ワークショップ」です。
 十六名のいずみ高生が日本を飛び出し、ニュージーランドでグローバルな学びを展開しましたが、海外から日本を眺めた経験は、きっと今後の生き方を変えるほど、大きなインパクトを与えたのではないかと思っています。なかでも、参加者全員が共通して感じたことは「日本とは異なる豊かさ」でした。日本ではたくさんの工業製品が生産され、たくさんのモノで溢れています。戦後の日本は安価で良質なモノに満ちた社会を生み出しましたが、その物質的豊かさは心の豊かさにつながっているのでしょうか。ニュージーランドでは、ゆったりとした時間を過ごすことや家族優先で生活することなどの考え方が社会全体で共有されていました。
 豊かさの定義はいろいろあると思いますが、私は「好きなことに使える時間」で決まると思っています。ともすると、お金・モノ・空間などを贅沢に使うことが豊かだと錯覚してしまうことがありますが、好きな場所、好きな人や仲間と一緒の空間、ここに流れる時間こそが心を豊かにしてくれるものだと思うのです。
 世界一貧しい大統領として知られた、元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ氏は、「自由な時間を確保するため、最小限度のお金やモノは必要かもしれないが、お金やモノ自体を手に入れることを目的にすることは、かえって心を貧しくする」と述べています。皆さんの人生にとって、心豊かに暮らすことにとって、何が大切なのかを是非考えてみてください。

 もう一つは、先月実施した「いずみホームカミング2019」です。
 学校というところは、やはり「卒業生が誇れる存在」でなければならない、と私は思います。ホームカミングとは、文字どおり、卒業生が我が家に帰ってくる日です。卒業生や地域の皆さんに、いずみ高生の頑張る姿を見てもらうとともに、卒業生と学校とが絆を深める日です。今回はいずみ高校の第一期生に招待状を送付しました。宛名不明で戻ってくるものもありましたが、それでも第一期生の約四分の一が来校してくれました。なかには関西から新幹線で駆けつけてくれた方もいました。懐かしの同級生やかつての先生方と再会し、楽しいひと時を過ごしてもらうことが出来ました。  皆さんにとって、いずみ高校は明日からは帰るべき学校となります。思い出の詰まった学び舎は、皆さんを品格あるプロフェッショナルに育ててくれました。そして、地球環境のよき理解者として、各界で活躍してくれることをいつまでも祈り続けます。この先の人生、苦しいときや辛いときもあるかもしれませんが、そんな時はいずみ高校のことを思い出してください。ここで出会った多くの友や先生、地域の人たち、そして、いずみプライドを忘れずに頑張ってほしいのです。
 ここで結ばれたいずみ高校との固い絆は、ちょうど親と子のように、決して切れることのない強いものだと確信しています。明日からはいずみ高校の応援団の一員として、後輩たちを見守ってください。そして、何年かしてホームカミングに招待される日が来たら、必ず中庭に集まってください。六本のメタセコイヤは、鷹揚な姿で、皆さんの帰りを待ち続けます。

 最後になりますが、保護者の皆様におかれましては、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。本校入学時と比べて心身ともに立派に成長した卒業生の皆さんの姿を、職員一同とても頼もしく思っております。そして、この卒業を機に、さらなる大人としての成長を遂げてくれるものと期待しております。
 お子様の在学中、本校教育活動への格別のご支援とご協力をいただきましたことに、改めて感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。

 結びに、第五十五回卒業生の皆さんが、素晴らしい人生を歩んで、未知なる地平に勇敢に旅立つことを心から願い、式辞といたします。

 平成三十一年三月十二日   埼玉県立いずみ高等学校長 栗藤 義明
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