2019年8月の記事一覧
まもなく新学期、皆さんを覆う泡(バブル)を打ち破れ!
突然ですが、「フィルターバブル」という言葉を知っているでしょうか?
フィルターバブルとは、インターネット上で、利用者の考えや行動特性に合わせた情報ばかりが作為的に表示される現象のことをいいます。皆さんも経験があると思いますが、ネットで商品を購入すると、いや単に閲覧しただけでも、その商品サイトは瞬く間に利用者の嗜好(志向)を統計的に学習し、その後、「レコメンド(おすすめ品)」を次々に示すようになるというアレです。これはオンライン取引(イーコマース)においては大変効果的な宣伝手法ですが、これが繰り返されていくうちに、利用者の嗜好(志向)に近い情報が優先的に表示され、望まない情報から遠ざけられていくことになります。自身の嗜好(志向)という「フィルター」によってつくられた「泡(バブル)」に閉じ込められ、受け取る情報が中立性を欠くという「フィルターバブル」に覆われるようになるのです。
皆さんは自分が見ているインターネットの世界が、他の人にも同じように見えていると思っていませんか? 実は違います。検索結果は決して平等なものではないのです。公平な情報を提供しているはずのニュースサイトでさえ、その人の嗜好(志向)によって偏ったものになっています。ネットに流れ込んでくる情報は、購入履歴に紐づけられた商品サイトの広告や、閲覧したニュースに関連するページのレコメンド、SNSのタイムラインに流れてくる親しい友人の投稿などによって、誘導されたものになっていくのです。今日では技術的にはいとも簡単に、よりパーソナライズされた情報の泡(バブル)を作り出すことが可能になっています。そして、興味関心というフィルターの精度が上がれば上がるほど、目にする情報はどんどん偏っていき、自分と異なる立場の意見との接点は減っていきます。つまり、自分にとって都合の悪い、心地悪い情報は入らなくなっていくのです。
ネット社会に広がるこうした影(闇)の話を聞いて、皆さんは現実の世界がこの「フィルターバブル」によく似ているということに気づきませんか?
自分の嗜好(志向)に近い友人とばかり一緒にいると、考え方が狭くなり、あるいは他の考えを受け付けなくなり、仲間うちの価値観だけで物事が判断されるようになっていきます。そこに異なる価値をもつ人間が入ろうとすると、自分たちの泡(バブル)によって、異質な価値を寄せ付けようとなくなるわけです。これは「同調圧力」というようにも表現されますが、多様な価値を否定し、他者に非寛容というよくない心(マインド)を作り出します。いじめの構図はこのようなマインドに端緒をなすのだと思います。逆に言えば、一度その泡(バブル)の中から世界を覗くようになった人は、本当の意味ではフラットな人間関係を構築できなくなっているとも言えます。
いずみ高生の皆さんには、しなやかな感性で、是非世の中の様々な価値観を受け入れてほしいと思います。これは、他者を認めるというシンプルな行動規範でありながら、様々な偏見・差別などから、自分の心を遠ざけることへとつながっていきます。新学期の準備として、この自分を覆っている泡(バブル)を打ち破り、その外側の広い世界を感じてほしいのです。そこには大勢の人たちが生きています。
他者と上手にかかわるコツは「自分の価値を押し付けず、他者の求める自由を尊重し、自分の求める自由との調和を図ること」ではないでしょうか。争いのない世界とは互いの自由を尊重し、守り合うことです。19世紀に活躍したドイツの哲学者ヘーゲルも「人間的欲望の本質は自由である」と言っていますし、この自由を相互に承認することこそが、この社会の原理的な考えなのだと主張しています。理論上「自由の相互承認」が実現されれば、世の中から争いごとはなくなるというのです。
もし新学期になるのが憂鬱だと感じているのだとしたら、あなたを覆っているフィルターバブルが何かしらのバイアス(偏った見方・考え方)を与えた結果、そのように感じさせているのかもしれません。思い切って、その外側にいる人や世界とつながってみてはどうでしょう。ちょっと疎遠になっていた友達、親戚(従兄弟・従姉妹)、近所のおじいさんやおばあさん、誰でもいいんです。いつもと違う、泡(バブル)の外の世界に目を転じてみましょう。そして、誰もが抱く「自由に生きたい」という考えを尊重し、それを互いに承認し合うように行動してみましょう。そうすれば、いずみ高校は学びの場としてもっともっと居心地の良い学校となっていくはずです。
憂鬱な気持ちでこれを読んでいるあなたの心が少しでも和らぐことを祈っています。
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